大野の音風景めぐり

1999.3.21実施


 金沢市環境保全課の主催で一般市民を対象にした行事に参加した。今年度は夏に音風景保全全国大会という大きな行事が金沢であり、それ以来のイベントだ。今回は音風景を少しゲーム風に仕立ててみた。というのも、イヤークリーニングは比較的地味な演習風のものであり、子どもからお年寄りまでを対象にしようとした場合、ちょっとやりにくいと感ずることが多かったからである。ゲーム仕立てにすることで、誰もが単純に楽しめ、かつ、音への気づきの導入とすることができると考えたのだ。

 しかし、その分準備の手間はかかった。音をあらかじめ録音し、写真を撮っておくということが必要になった。それでも自分自身大野町をあまり知らなかったので、これは必須の手順でもあったろう。

 内容は「音の探偵団」である。あらかじめ録音された音(今回は6個の音)を聞き、その音の聞こえかたを擬音であらわしたり、印象をメモしておき、その音を実際に街に出ていって探すというものだ。街に出るといってもあらかじめコースは決められているので見つけやすくはなっている。1時間少々あればすべての場所を回れるほどの町並みで起伏もほとんどない。散歩としても楽しめるようなコースである。

 散策の終わり頃に少し雨が降ってきた。気温は寒からず暑からず、おおむねよしとせねばならないだろう。このような行事は天気が大変重要だ。今まで本当に天気には恵まれてきたといえるだろう。しかし、音は水物でハプニングもある。大野川河口でその日に限ってカモメが鳴いていなかった。少々焦ったが、すこしづつネタをばらしてその場をしのいだ。

「えーほんとはカモメがここで鳴いていたんですけどねえ。」

 大野は昔からの金沢の港町であり、また、醤油の産地である。この二点が大きなポイントとして全体を構成してある。特別にお願いして、その日は大野川河口べりにある醤油工場の中にも入らせてもらった。街の中では時折風に乗ってふっとかぐわしく香る醤油の匂いだが、工場の中は息が詰まるほどのきつい匂い。アルコール分もあるのでむせてしまうほどだ。それでもどうにか慣れるものだった。中はいろいろな醗酵段階の桝があり茶色いもろみが泡立っていた。はじめて見る人がほとんどで、皆、興味深げにもろみをのぞき込み、泡のはじけるかすかな音に耳を傾けていた。

 集合と講評の会場は「もろみ蔵」という喫茶店を利用させていただいた。ここは、かつて醤油を作っていた蔵を改造した場所だ。壁や天井には醤油の染みが残り、古い大きな時計が時を刻む。またここは、住民参加を基本に運営されており、この町のまちづくりの拠点となっている。その活動はプランナーの水野雅男さんが中心となっている。この場所で庭造りをみんなで考えたり、コンサートをしたりして、観光客もだいぶ増えた。実は当日は貸しきりではなかったので散策から帰ると観光客のかたとかもいたりして、音と文学ということではなそうとしていたことはかなり割愛せざるをえなくなってしまった。

 蛇足かもしれないがここの醤油アイスクリームはおいしい。えーっと思うかもしれないが、なかなか香ばしくてしつこくなく、人気の商品になっている。


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